コラム
- コラム
SDGsは儲かる⁉ SDGsの市場規模と株価・利益・離職率との相関関係
SDGsに投資効果を知っておくことは、SDGs導入のための社内環境の醸成及び経営資源の適正配分の点から重要です。
本コラムでは、SDGsの市場規模・SDGsと株価・利益・離職率などとの相関関係を紹介します。
≪セミナー開催のお知らせ≫
当社では、下記セミナーを開催しております。ご興味のある方は、下記画像をクリックしご登録ください。
- サプライチェーンの再評価・再構築セミナー
- SDGsウォッシュセミナー
- 脱炭素経営セミナー
- TCFDセミナー など
目次
1. SDGsの市場規模(世界)
(1) SDGsの市場規模(世界) ~最大年間12兆ドル・3億8千人の雇用創出 ~
① SDGsの市場規模
国連開発計画(UNDP) は、SDGsの達成に向けて2030年まで年間2-3兆ドルの予算を投じることを明言しています。
国連開発計画(UNDP)によれば、SDGsの野心的な目標を達成するために、世界で年間5~7兆ドルの資金が必要となり、投資機会は途上国で1~2兆ドル、先進国でも最低1.2兆ドルとも試算されています。
SDGsが達成されるならば、労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し、2030年までに年間12兆ドル(約1,300兆円)の新たな市場機会が生まれるとも言われています。
また、2030年までに創出される全世界の雇用は、約3億8000万⼈だと推計されています。
② ”経営資源の適正配分の羅針盤”としてのSDGs
UNDPも、SDGsはただ単なる”環境・社会課題の解決”ではなく、”経済成長のためのイノベーション・ドライバー”として捉えています。
SDGsは、”共通の価値観をまとめた経済界を含む社会全体の方向性を指し示すもの”です。
産業革命に匹敵する経済インパクトがあり、企業にとって”ビジネスチャンス”、つまり、”宝の山”なのです。
したがって、”社会が将来に向けて求めているニーズを洗い出し、企業の経営資源を長期的に何に分配するかを決定する羅針盤”として、SDGsを活用することが企業の持続的成長には欠かせません。
(2) 分野ごとのSDGs市場規模(世界)
BSDC(Business & Sustainable Development Commission)によると、分野ごとのSDGsがもたらす累積効果は、以下の通りです。
順位 | 分野 | 市場規模試算 |
---|---|---|
第1位 | モビリティシステム | 2.02兆ドル (約220兆円) |
第2位 | 医療・福祉関係 | 1.65兆ドル (約180兆円) |
第3位 | エネルギーの効率化 | 1.34兆ドル (約150兆円) |
第4位 | クリーンエネルギー | 1.20兆ドル (約130兆円) |
第5位 | 住宅関係 | 1.08兆ドル (約120兆円) |
CASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)化による自動車をはじめとするモビリティシステムの市場規模が一番大きいと試算されています。
次に、医療技術・オンライン診療等の医療・福祉分野での発展、省エネ技術の発達などによるエネルギーの効率化、太陽光発電・風力発電の浸透によるクリーンエネルギービジネスが有望視されており、スマートシティや建物のZEB化などによる高機能かつリーズナブルな住宅拡充などが大きなマーケットとして期待されています。
(3) SDGs目標ごとの市場規模(世界)
① SDGs目標ごとの市場規模 まとめ
デロイトが2017年12月に作成した「SDGsビジネスの可能性とルール形成」によると、SDGs目標ごとの市場規模の試算は、以下の通りです。
市場規模が大きい上位3つの目標とその市場規模は、以下の通りです。
順位 | SDGs目標 | 市場規模試算 |
---|---|---|
第1位 | 目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに | 803兆円 |
第2位 | 目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう | 426兆円 |
第3位 | 目標11 住み続けられるまちづくりを | 338兆円 |
第1位の「目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の市場規模は、自動車産業全体の市場規模(510兆円)の1.5倍もあり、T型フォードが発売された自動車革命を超えるインパクトがあると試算されています。
また、第2位の「目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう」は、5GやAIなどのテクノロジー・防災システムの発達に関わるものであり、第3位の「目標11 住み続けられるまちづくりを」に関連するスマートシティや気候変動・自然災害に強い都市設計などの投資が今後も多いと試算されています。
一方で、教育・安全な水資源・平和など、途上国で課題とされやすく先進国の経済に直結しずらいSDGs目標の市場規模は大きくなく、先進国と途上国との間で分断がより進まないか懸念されます。
② 市場規模が上位3つの目標とその成長エリア
a) 目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
目標7では、脱石炭火力発電化による電源構成の変更や高エネルギー効率の発電システムへの変更などの市場規模が一番大きく、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資する「カーボン・オフセット」や太陽光発電・風力発電などの再生可能エネルギーの新設・拡充に係る投資コストなども大きな市場規模があると試算されています。
なお、カーボン・オフセットについては、イギリスにおいて、オフセットするための削減活動が実質的な温室効果ガスの削減に結びついていない事例への指摘や、オフセットが自ら排出削減が行われないことの正当化に利用されるべきではないことの認識が共有される必要があるとの意見もあります。
b) 目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう
目標9では、AI・5Gなどのテクノロジーの進化とシステム運用保守系のサービスが一段と拡大するだけでなく、気候変動・自然災害に対する防災システム・設備の設置及び耐震改修などへの投資規模も多く、エコカー・エコ家電のほか、サーキュラーエコノミー関連のリサイクル関連サービスの市場規模も大きいと想定されています。
c) 目標11 住み続けられるまちづくりを
目標11では、気候変動・自然災害に対する防災システム・設備の設置及び耐震改修など(目標9と同様)への投資規模も大きいほか、環境監視システムなど環境インフラや環境汚染関係の保険などの市場規模も大きいと想定されています。
2. 企業のSDGsの投資効果 ~株価・利益・離職率との関係~
(1) SDGsと株価との関係性
① SDGsと株価
GPIFが2021年8月に公表した「2020年度ESG活動報告」によると、2017~2021年の4年間で選定された4つのESG指数全てのパフォーマンスが市場平均を上回る結果となりました。
また、経産省の「SDGs 経営/ESG 投資研究会報告書」でも、「欧州では ESG の上位 20%がコンスタントにパフォーマンスが良い。」とあります。
さらに、ニッセイアセットマネジメントが長期業績予測を行っている企業のうちSDGs達成に関連した製品・サービスを提供する銘柄(約400銘柄)を投資対象としたシミュレーションによると、SDGs関連銘柄は世界株式のパフォーマンスを十分に上回っているとあります。
「卵が先か、鶏が先か」の議論はありますが、SDGs(ESG)の浸透度と株価との間には一定の相関性があります。
(2) SDGsと利益との関係性
① 日本経済新聞社の調査(SDGs経営調査)
日本経済新聞社が毎年実施している「SDGs経営調査」によると、SDGs偏差値と利益率との関係は以下の通りであり、SDGsの偏差値が高いほど利益率が高いです。
≪SDGs偏差値と利益率の関係≫
・ SDGsの偏差値が55~60未満 : 売上高営業利益率は平均6.7%、ROEは平均8.2%
・ SDGsの偏差値が60~65未満 : 売上高営業利益率は平均7.8%、ROEは平均10.1%
・ SDGsの偏差値が65以上 : 売上高営業利益率は8.2%、ROEは11%
② 帝国データバンクの調査
2020年9月の帝国データバンクの政策レポートによると、SDGsに取り組んでいる企業の利益率は全体の利益率を上回っています。
(3) SDGsと離職率との関係性
経産省ホームページ「健康経営優良法人認定制度」によると、”働きがい(SDGs目標8)のある働き方改革に熱心な企業”を選定・表彰した”健康経営優良法人”の離職率(5.4%)は全国平均(11.4%)の約2分の1と、SDGs(SDGs目標8)に熱心な企業ほど、離職率が低いことが統計上明らかになっています。
このように、”株価”・”利益”・”離職率”などの面からみても、SDGs/ESGを進めることは企業の持続的成長とWellbeingな組織を創る上で不可欠な要素と言えます。
(参考) ダイバーシティ(女性役員)と経営指標
① 取締役会における女性役員比率 ~6.2%、依然として低い女性役員比率~
内閣府男女共同参画局によると、2012年から2020年の8年間で上場企業の女性役員数は約4.0倍に増え、着実に成果が上がってはいるものの、女性役員比率は依然として6.2%と低く、欧米諸国が30%前後であることを考えると取締役会のダイバーシティは道半ばといった状況です。
② 株主総会での議決権行使方針
また、ダイバーシティ(女性役員構成)について、機関投資家などは株主総会での議決権行使方針を策定しており、女性役員比率の低い上場会社への風当たりはより一層強まると考えられます。
会社 | 議決権行使方針 |
---|---|
米国大手機関投資家 ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ | 2018年より、日本においても取締役会に女性役員または女性役員候補がいない場合、株主総会において取締役会の取締役案などに反対票を投じることを決定 |
資産運用会社 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント | 2020年4月、議決権行使基準として「取締役会に女性がいない会社の取締役選任決議に反対する」ことを決定 |
資産運用会社 アクサ・インベストメント・マネージャーズ | 2020年から取締役会に少なくとも1人の女性取締役を含めること(大きな取締役会では10%)を促す予定であることを発表 |
議決権行使助言会社 グラスルイス | 東証1・2部上場企業において女性役員が1人もいない場合、原則としてジェンダー・ダイバーシティの欠如に責任があると思われる取締役の選任議案に反対助言する旨をガイドラインに記載 |
③ ダイバーシティ(女性役員)と株価との関係性
経産省の資料(下表)によると、女性取締役のいる企業の方が株式パフォーマンスが良いことがわかります。
特に、リーマンショックなど厳しい環境変化への耐性が強く、回復が早い傾向にあります。
コロナの初動対応で成功したニュージーランド・台湾のトップは女性ですし、”前例にとらわれず是々非々での意思決定”・”人口の半分である女性目線での意思決定”ができる女性マネジメントの強みが企業経営にも好影響を与えている考えられます。
④ ダイバーシティ(女性役員)と利益との関係性
内閣府 男女共同参画局の資料(下図)によると、 女性取締役のいる企業の方が利益パフォーマンス(ROE・EBITマージン)が良いことがわかります。
以上のように、”株価”・”利益”などのパフォーマンス・投資家からのダイバーシティに対する要請などを考慮すると、取締役会など組織の上層部への女性参画を進めることが、企業成長・ガバナンス強化の両面で必要と言えます。
3. SDGsの関連コラム
本コラム以外でも、下記のSDGsに関連するコラムを公開していますので、併せてご覧ください。
テーマ | タイトルとリンク |
---|---|
経営者の説得 | SDGsに予算が下りない‼ 経営者の説得にまずしたい5つのこと |
最初にすること | SDGs担当に任命‼ 最初にしたい5つの基礎的な取り組み |
投資効果 | SDGsは儲かる!? SDGsの市場規模と株価・利益・離職率との相関関係 |
メリット・デメリット | SDGsは単なるブーム!? 会計士が解説するSDGsのメリット・デメリット |
新卒採用・Z世代 | SDGsで差別化‼Z世代の優秀な新卒就活生の採用を成功させるには |
SDGsウォッシュ | 販売停止!? 侮ると怖いSDGsウォッシュの事例とリスク回避策 |
関連リンク・ガイドブック集 | 知っておきたいSDGsの関連リンク・ガイドブック・コミュニティ |
日本の順位と課題 | 日本は何位!? 世界のSDGs達成度と日本の順位 |
ランキング・調査結果 | ランキング・調査結果でみるSDGsの現在地 ~世界、企業、自治体、就活生、消費者~ |
CSR・CSVとの比較 | SDGsとCSRの違いとは?企業が取り組みたい”攻め”のSDGs経営 |
三方よしとの比較 | SDGsは『三方よし』を進化させた発信型『六方よし』 |
サステナブル・ファイナンス | SDGs・脱炭素で金利引き下げ! 拡がるサステナブル融資 |
国・自治体の認証制度 | 国のSDGs認証制度ってあるの? 自治体・国際認証機関によるSDGs登録・認証制度も紹介 |
国際認証機関による認証制度 | 他社と差別化! 攻めのSDGs経営に使える認証制度 |
エシカル消費 | もう買わない!! SDGsウォッシュを許さないエシカル消費とは |
フェアトレード | フェアトレードとは!? 事例や認証制度も紹介 |
補助金 | 予算枠が拡大! SDGs・脱炭素に使える補助金・助成金 |
4. そもそもSDGsとは
(1) SDGsとは
「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界の国連全加盟国によって採択された国際社会共通の目標です。
このサミットでは、2015年から2030年までの長期的な開発の指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。
この文書の中核を成す「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいます。
知っておきたいSDGsの主な特徴は、以下の通りです。
- 国連加盟国全193ヵ国が合意した目標
- 発展途上国だけでなく、先進国も含めたすべての国に行動を求める世界全体の共通目標
- すなわち、世界の共通言語であり、地域・世代を超えて対話できるコミュニケーション・ツール
- 目標年(2030年)・具体的な数値も示した目標(17の目標と169のターゲット)がある
- 目標達成に法的義務はなく、取り組むか否か・その程度は各主体の判断に委ねられている
- 国・自治体だけではなく、企業・その他の団体・個人のあらゆる主体が取り組むことが期待される
- 「経済」、「社会」、「環境」の3つに関わる目標があり、同時両立による同時達成を目指す
- 企業には、慈善活動・ボランティアだけでなく、本業の中で取り組むことが期待される
(2) SDGsの「17の目標」と「169のターゲット」とは
SDGsは「17の目標」と17の目標をより具体化した「169のターゲット」で構成されています。
(3) 企業が気を付けたいSDGsウォッシュとは
SDGsウォッシュとは、”実態が伴っていないのにSDGsに取り組んでるように見せかけること”をいいます。
「ウォッシュ(wash)」には、”うわべだけ・表面だけ塗って中身をごまかす・体裁を取りつくろう”といった意味があります。
(具体例)
自動車会社が電気自動車の販売により気候変動対策に貢献しているにもかかわらず、コンゴでのコバルト採掘に5歳の子供を従事させていること
詳細は、別コラム「販売停止!? 侮ると怖いSDGsウォッシュの事例とリスク回避策」をご覧ください。
(4) SDGsのよくある質問
お問い合わせいただくSDGsの質問のうち、まず最初に知っておきたい15のことを資料にまとめました。
ご興味がある方は、下記ボタンからご入手ください。
当社は、公認会計士・CSRスペシャリストなどの専門家集団と大学教授などの学術研究者陣との協働による産学連携により、SDGsの研修・浸透、SDGs経営への移行を支援しています。
15分間無料相談などもしていますので、SDGsに関してお困りごとがあればお気軽にお問い合わせください。
無料相談・お問い合わせ
SDGs導入、補助金申請など
当社へお気軽にご相談ください。
分科会への参加お申込み受付中
当社は、内閣府の設置した「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」において2つの分科会を主催・運営しており、随時参加者を募集しております。
分科会にご参加いただくには、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」への会員登録も必要です。
ご興味のある方は、一度弊社にお問い合わせください。
分科会について詳細はこちら
(免責事項)
掲載する情報の正確さには細心の注意を払っておりますが、その内容について何ら保証し責任を負うものではありません。
本コラムは、一般的な情報を掲載するのみであり、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。
本コラムの作成後に、関連する制度その他の適用の前提が変動する可能性もあります。
個別事案への適用には、本コラムの記載のみに依拠して意思決定されることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。