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SDGsとCSRの違いとは?企業が取り組みたい”攻め”のSDGs経営

執筆者:小林孝嗣

公認会計士/㈱文化資本創研 代表取締役社長
国際文化政策研究教育学会 会員

㈱文化資本創研とは
サステナビリティ経営のための産学連携会社。
主な事業は、SDGs・脱炭素経営の実装支援、オープンイノベーション加速化事業、経済効果測定・データ分析。
大阪・関西万博2025への産学連携共同参画プロジェクトも展開。
京都大学含む10以上の大学・研究機関の教授・研究者と公認会計士・IRスペシャリスト・データアナリスト・プロダクトデザイナーなど実務のプロ集団が協働で企業のサステナビリティ経営の実装を支援している。
国際文化政策研究教育学会などと連携。 脱炭素経営促進ネットワーク (環境省) 支援会員

”CSRとSDGsとの違いがわからない”
”CSRを取り組んでいるから、新たにSDGsを取り組まなくていいんじゃないか”
このような質問をよく受けます。

SDGsとCSRとは共通点もあり、ほとんど同じと捉える方が相当数いらっしゃいます。
SDGsとCSRは両方とも企業経営で欠かせない要素ですが、企業経営において果たすべき役割が異なります。

そこで、本コラムでは、SDGsとCSRとの違いを明らかにし、それぞれの企業経営における役割を紹介します。

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目次

  1. SDGs・CSR・CSVとは
  2. SDGsとCSRの違いとは
  3. SDGs時代の3つの基本姿勢

1. SDGs・CSR・CSVとは

(出所)当社作成

(1) SDGsとは ~全世界が合意した国際社会共通の目標~

SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界の国連全加盟国によって採択された国際社会共通の目標です。
このサミットでは、2015年から2030年までの長期的な開発の指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。
この文書の中核を成す「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいます。

知っておきたいSDGsの主な特徴は、以下の通りです。

  • 国連加盟国全193ヵ国が合意した目標
  • 先進国だけでなく、発展途上国も含めたすべての国に行動を求める世界全体の共通目標
  • すなわち、世界の共通言語であり、地域・世代を超えて対話できるコミュニケーション・ツール           
  • 目標年(2030年)具体的な数値も示した目標17の目標と169のターゲット)がある
  • 目標達成に法的義務はなく、取り組むか否か・その程度は各主体の判断に委ねられている
  • 国・自治体だけではなく、企業・その他の団体・個人のあらゆる主体が取り組むことが期待される
  • 「経済」、「社会」、「環境」の3つに関わる目標があり同時両立による同時達成を目指す
  • 企業には、慈善活動・ボランティアだけでなく、本業の中で取り組むことが期待される

当社は、SDGsに関わる情報を別ページ 『SDGsの基礎を知りたい』でご紹介しています。
SDGsの基礎について体系的に学びたい方は、『SDGsの基礎を知りたい』 をご覧ください。

 また、お問い合わせいただくSDGsの質問のうち、まず最初に知っておきたい15のことを資料にまとめました。
 ご興味がある方は、下記ボタンからご入手ください。

(2) CSRとは ~”守り”としての企業の社会的責任~

① CSRとは ~慈善活動だけではない本業でのCSR~

CSRとは、「Corporate Social Responsibility」の略称であり、「企業の社会的責任」と訳されます。
企業は”利益を追求するだけでなく、環境・社会に及ぼす負の影響に対して責任を持つべき”との考え方です。
社会的責任の国際規格であるISO26000などで具体的なガイドラインが示されています。
CSRは、ステークホルダーに対して、社会課題への対応を通じて“ちゃんとした会社”であることの説明責任を果たす役割を担っています。

CSRは、”本業とは別個に行う慈善活動やボランティア”というイメージを持っている人は多いですが、実はCSRは ”本業の中で取り組むもの”です。

② CSRのガイドライン ~社会的責任に関する手引き(ISO26000)~

ISO26000は、ISO(国際標準化機構)が2010年11月に発行した官民両セクターにおける社会的責任に関する国際規定のことで99ヶ国が参加して作成されたものです。
ISO26000は、第三者がチェックする認証規格ではなく(法的拘束力はなく)、企業が自主的な「手引き」として活用するものです。

日本では、過去経団連がISO26000に基づき企業行動憲章の改定を行っており、ISO26000の規格に準じたCSRガイドラインを持っている企業もありますが、CSR報告書のガイドラインとして使うだけの企業が多いです。

ISO26000には、基本的概念である「7つの原則」と具体的なCSR活動の枠組みである「7つの中核主題」とがあり、7つの中核主題には37の課題が列挙されています。

≪7つの原則≫
 説明責任
 透明性
 倫理的な行動
 ステークホルダーの利害の尊重
 法の支配の尊重
 国際行動規範の尊重
 人権の尊重

≪7つの中核主題≫
 組織統治
 人権
 労働慣行
 環境
 公正な事業慣行
 消費者課題
 コミュニティへの参画

③ ”本業でのCSR”が推進される3つの理由

 本業でのCSRが重視されているのには、以下の3つの理由があります。

  • 理由① 利益が出て時にだけ慈善活動するのであれば、継続的な取り組みが期待できない
  • 理由② 慈善活動をしつつ、本業で環境への悪影響を与える企業が多い
  • 理由③ 本業に利用すれば、イノベーションと創造性につながる

④ 伊藤園 ~伊藤園グループCSR憲章~

伊藤園では、ISO26000を活用して7つの原則と7つの中核主題に即して事業におけるリスクと機会を洗い出し、”環境・消費者課題・コミュニティへの参画及びコミュニティの発展”の3分野を重点テーマとして、社会価値と事業価値の同時実現を目指す共通価値の創造(CSV)につなげています。

(出所)伊藤園HP

(3) CSVとは ~”攻め”の事業戦略としての共通価値の創造~

① CSVとは 
 ~M・ポーター教授らによる経済価値と社会価値の同時実現を目指す競争戦略~

CSVとは、「Creating Shared Value」の略称であり、「共通価値の創造」と訳されます。
2011年にハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授らによって提唱された”企業の事業活動を通じて社会課題の解決をしようというもの”であり、社会的価値(公共の利益)と企業価値(企業の利益)を共有し、両方の実現を目指していく競争戦略です。

CSVは、M・ポーター教授らがネスレの経営モデルからヒントを得て生み出したと言われています。
ネスレは、CSVという言葉が生まれる以前から社会課題解決型の経営戦略を行っており、サスティナビリティを基盤に、その中から重要課題(”個人と家族”・”コミュニティ”・”地球”の3つ)を抽出して、社会課題にも対処しながら企業価値向上を目指すという共通価値の創造により事業活動が行われています。

日本でも、キリンHDがCSV推進のための部署を設けているなど、CSVの考え方を取り入れている企業も多いです。

② CSVの指針となるSDGs ~解決すべき環境・社会課題のリスト化~

CSV理論の中で価値創造の対象としての環境・社会課題は必ずしも明示されていませんでした。

このような中で、2015年にSDGsが策定され、環境・社会に係る目標が17の目標と169のターゲットという形で示されたことにより、企業が解決すべき環境・社会課題が明確になりました。

(出所)当社作成

SDGsは、”企業が本業を通じて解決すべき環境・社会課題を明示したCSVの指針”であり、”CSVを”世界共通の方向性”と合致させた形へとバージョンアップしたCSVの進化版”と解釈することもできます。

2. SDGsとCSRとの違いとは ~”攻め”の戦略的SDGs経営~

(1) SDGs・CSR・CSVの共通点 ~本業の中に組み込まれるべきもの~

SDGs・CSR・CSVは、慈善活動やボランティア活動のような本業とは別個のものと捉えるのではなく、”企業の活動に組み込み、本業の中で社会貢献を果たしていく”という点で共通しています。

(2) CSRとCSVとの関係性  ~”守り”のCSR ”攻め”のCSV~

CSVは、CSRとの比較されることが多いが、CSVはCSRの延長線上にある概念ではありません
CSRで企業経営の”守り”を固め、その土台の上でCSVを’攻め”の事業戦略として実行していくものであり、両方とも企業経営にとっては非常に重要な概念です。

(出所)当社作成

① CSRとCSVとの違い

一般的に、CSRは経営戦略とは別個に位置づけられ別の予算で執行されるもの(追加コストが発生するもの)と考えられる傾向にあるが、CSVにおいて環境・社会課題の解決は企業の競争に不可欠な”利益創造の源泉(イノベーション・ドライバー)”として捉え、経営戦略に統合し、社会課題の解決を通じて利益の最大化の同時実現も目指す点が大きく異なります。

② CSRとCSVを経営に統合する3つのステップ

  • Step① 本業でのCSRを推進し、経営基盤である”コンプライアンス”や”サスティナビリティ”を固める
  • Step② その中から経営上の重要テーマ(マテリアリティ)を抽出する
  • Step③ CSV戦略に反映し、社会課題解決型の競争戦略に結び付ける

伊藤園のグループCSR憲章は、両者の構造を体系化した良い事例ですので、ご興味がある方はご参照ください。

(3) SDGsとCSRの違い

① ”経済成長”を”効果”ではなく”目標”としたSDGs

SDGsとCSRとの一番の違いは、”経済成長”を”目標”して位置づけているか否かです。
CSR概念にないSDGsにおける”経済”関連の目標は、以下の2つです。

CSRでも”経済”を考慮に入れていないわけではありません。
”経済成長”はCSRを取り組んだことの”効果(メリット)”として考えられているわけで、7つの中核課題に正面から”経済成長”を目指したものはなく”目標”という位置づけではありません。
”経済成長”を”目標”とするか否かが、両者の下記の違いを生んでいます

② SDGsとCSRとの違い ~”土台・守り・攻め”をカバーする戦略的SDGs経営~

(出所)当社作成

CSRは、社会・環境を重点テーマに環境・社会に及ぼす負の影響に対して責任を持つべき” という企業の経営基盤である”コンプライアンス”・”サスティナビリティ”の”守り”を固めるべきものとして、一般的には利益の最大化とは別物として捉え、CSR対応による追加コストもやむなしという考え方です。
一方で、SDGsの目標には、上述の通り、”社会”・”環境”だけでなく”経済”に関連する目標もあり、3つの側面の同時両立・同時達成を目標としたものであり、解決すべき環境・社会課題を ”利益創造の源泉” として捉え、17の目標と169のターゲットにより、 ”コンプライアンス”・”サスティナビリティ” のような企業経営の”土台”・”守り”を固めつつ、経営上の重点テーマとして経営に統合する”攻め”の経営により利益の最大化も図る点が大きく異なります。

(出所)当社作成

本当のSDGs経営が出来ているかどうかは、どの会議体で環境・社会課題が話されているかでわかります。
CSRでは、一般的に環境・社会課題はサスティナビリティ委員会・リスク管理委員会などで中心に議論され、定期的に(+緊急対応が必要な場合に)取締役会など意思決定機関に報告される報告事項です。
一方で、SDGsでは、環境・社会課題は”経営上の重点テーマ”として、常時取締役会・経営会議・執行役員会などの意思決定機関で討議される討議事項です。

自社が本当にSDGs経営をしているか?
その判断基準として、環境・社会課題がどの会議体では話されているか、改めて確認してみましょう。

3. SDGs時代の3つの基本姿勢 ~経営に統合するために~

SDGsを企業の長期的な成長につなげるには、”経営への統合”が非常に重要です。
”経営への統合”のために、企業が持っておきたい3つの基本姿勢をご紹介します。

(出所)当社作成

(1) SDGsをCSRの延長線上ととらえない

SDGsを本業とは別個の慈善事業やボランティアと捉えたり、また、CSRの延長線上に過ぎないという考えの方が少なからずいます。
また、CSRが浸透している日本企業では、SDGsはリスク管理・コンプライアンスの一環であくまで”守り”を固める手段であるという認識が根強く、”経営に統合する”という意識がまだまだ十分といえません

SDGsは”経営マター”であり、会社全体を巻き込みます。
したがって、”攻め”のSDGs経営に対する企業トップの正しい理解と行動がカギになります。

(2) SDGsを”イノベーション・ドライバー”として利用する

① イノベーション・ドライバーして利用する。

SDGsは、”世界の人が国・世代を超えて共感するルールブック”であり、世界全体を巻き込んだメガトレンドです。
また、事業戦略上、”社会の矛盾をまとめたビジネスのネタ帳”と解釈できます。
すなわち、17の目標・169のターゲットから、経営上の重点テーマ(マテリアリティ)を抽出し、CSVなどを利用しながら、解決すべき環境・社会課題への考え方を”リスク”から”チャンス”に切り替え、会社全体を巻き込んで長期視点での企業成長への足掛かりを築いていくことが非常に重要です。

② パートナーシップと協働する。~垣根を超えたオープンイノベーションを~

SDGsを”イノベーション・ドライバー”に転換するカギは、目標17のパートナーシップです。

SDGsの根本的な解決課題に対処するには、国・自治体・業界全体・同業他社・NGO・市民などのパートナーからの協力をいかに引き出せるか否かがカギとなります。
単独企業での課題対応(イノベーション)では、資金も人もノウハウもスピード感も足りず、先行している欧米企業や資本力のある大企業に太刀打ちできません

競争社会で生き残るためには、業界・同業他社の垣根を超えて協働する“オープンイノベーション”こそが重要です。
最近、サステナブル素材・水素関連技術・衣類のリプロダクトなど、同業者が協働した”オープンイノベーション” を基に課題を解決するケースが増えています。

ただ、コラボ相手を見つけることは容易ではありません。
周りにコラボできそうな企業が見当たらない場合、自治体や研究機関・商工会議所などで ’オープンイノベーション” のプラットフォームがありますし、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム関西SDGsプラットフォームなどではマッチングイベントを開催しています。
是非このような団体も活用しながら、長期的なパートナーシップが築ける企業を見つけましょう。

(3) 戦略的な情報発信により、社外だけでなく社内のファンも能動的に創造する

SDGsの取り組みを戦略的に情報発信し、情報発信を”経営に統合”することが重要です。

(出所)当社作成

SDGsの取り組みが充実している企業でも、情報発信が十分でなかったり情報発信が投資家やメディア向けのみであることが多く、非常にもったいないです。

SDGsは、”新たなファンを創造するコミュニケーション・ツール”です。
“ファン”とは、顧客だけを指すのでなく、イノベーションの原動力となる従業員や就活生、サプライチェーンなどのステークホルダーも含みます。
ステークホルダーごとのSDGsの関心内容を分析し、各ステークホルダーに合った形で”戦略的に発信”していくこと。すなわち、情報発信を通じたSDGsの経営への統合”が非常に重要です。

これは、対外向けに限らず、対内向けも重要です。
特に残念に感じるのが、新卒採用サイトやパンフレットです。
SDGsなどサスティナビリティサイトは充実しているのに、採用サイト・パンフレットではSDGsストーリーがない企業が本当に多いです。
就活生は、SDGsへの関心が高く、将来の企業のイノベーションの原動力なので、SDGsを採用戦略に組み込むことも忘れてはいけません。(詳細は、別コラムをご参照ください。)

すなわち、各ステークホルダーへの情報発信は十分か、情報発信は戦略的で一貫性は取れているか、体系的かつ戦略的なSDGsの情報発信こそが企業価値を総合的に高めるカギと言えます。

いかがでしたか?

SDGsとCSRとの違いをしっかり理解し、”攻め”のSDGs経営につなげていくこと。
これが企業価値を高めるために、非常に重要です。

当社は、公認会計士・CSRスペシャリストなどの専門家集団と大学教授などの学術研究者陣との協働による産学連携により、SDGsの研修・浸透、SDGs経営への移行を支援しています。
15分間無料相談などもしていますので、SDGsに関してお困りごとがあればお気軽にお問い合わせください。

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小林孝嗣

公認会計士
国際文化政策研究教育学会 会員
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