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TCFDとは ~最新動向・開示内容・プライム市場実質開示義務化などを公認会計士が解説~

執筆者:小林孝嗣

公認会計士/㈱文化資本創研 代表取締役社長
国際文化政策研究教育学会 会員

㈱文化資本創研とは
サステナビリティ経営のための産学連携会社。
主な事業は、SDGs・脱炭素経営の実装支援、オープンイノベーション加速化事業、経済効果測定・データ分析。
大阪・関西万博2025への産学連携共同参画プロジェクトも展開。
京都大学含む10以上の大学・研究機関の教授・研究者と公認会計士・IRスペシャリスト・データアナリスト・プロダクトデザイナーなど実務のプロ集団が協働で企業のサステナビリティ経営の実装を支援している。
国際文化政策研究教育学会などと連携。 脱炭素経営促進ネットワーク (環境省) 支援会員

初回投稿日:2021年12月1日
更新日:2022年1月12日

2022年4月4日の東証市場再編後のプライム市場上場会社に気候変動によるリスク情報の開示が、実質的に義務付けられました。
また、有価証券報告書上でのTCFD提言に沿った開示の義務化も検討されており、スタンダード市場・グロース市場上場会社も決して他人ごとではありません。

本コラムでは、TCFDとは何か、開示内容及びコーポレートガバナンス・コードの改訂内容・開示が求められる背景などを紹介します。

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目次

  1. TCFDの最新ニュース
  2. TCFDとは
  3. コーポレートガバナンス・コードの改訂による開示内容の変更 ~気候変動関係~
  4. TCFD提言に沿った開示とは
  5. TCFD提言に沿った開示が求められる背景
  6. 『脱炭素』に係る関連コラム
  7. 市場区分の見直しと「プライム市場」の位置づけ
  8. コーポレートガバナンス・コードの改訂(2021年6月)
  9. そもそも脱炭素(カーボンニュートラル)とは

1. TCFDの最新ニュース

(1) コーポレートガバナンス・コードの改訂(2021年6月)

(2) イギリスの開示強化 ~会社法規則案を発表~

  • イギリス政府が、2021年10月28日、大企業及び指定金融機関に対し、TCFD提言に沿った開示の義務化する会社法規則案を発表

(3) 東証再編後の市場区分別上場会社

2022年1月11日、日本取引所グループは、「上場会社による新市場区分の選択結果」を発表した。
その結果、各市場を選択した企業数は以下の通りであった。

上場会社区分上場会社数(外国株含む)
プライム市場1,841社
スタンダード市場1,477社
グロース市場459社

なお、東証一部上場企業2,185社(2022年1月11日現在)のうち、プライム市場を選択した企業は1,841社であり、東証一部上場企業の約84%がプライム市場を選択した結果となりました。

各会社が選択した市場区分は、日本証券取引所グループ「上場会社による新市場区分の選択結果」をご覧ください。

2. TCFDとは

(1) TCFDとは

TCFDとは、G20の要請を受け、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、金融安定理事会(FSB)により設立された気候関連財務情報開示タスクフォースのことです。
TCFDとは、Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称です。

(出所) TCFDコンソーシアムホームページ

TCFDは、2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関する下記の項目について開示することを推奨しています。

(出所) TCFDコンソーシアムホームページを基に当社一部加工

(2) TCFDの推進主体と目的https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSd5xNbUaAIRrhvE-ZmmPXrtUGF1BorP5fbU1zj3x-h-8NmJxg/viewform?usp=sf_link

① TCFDの推進主体 ~金融安定理事会~

TCFDの推進主体は、金融安定理事会(以下、FSBという。) です。
FSBは、1999年に設立された金融安定化フォーラムを前身とし、2009年4月に設立され、金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う当局間の協調の促進に向けた活動などを行っています。
FSBには、2020年末時点で、主要25か国・地域の中央銀行、金融監督当局、財務省、主要な基準策定主体、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECDなどの代表が参加しています。

② TCFDの目的 ~中長期的な金融市場の安定化のため~

TCFDの究極的な目標は、炭素排出量がより少なく気候変動に対して強靭な経済への円滑な移行を通じて、金融市場を中長期的により安定した強靭なものにすることです。

IPCC報告書によると、「1961~1990年と比べて2100年の気温上昇が1.5~2°Cとなった場合、気候変動による市場および非市場への影響、海面上昇による影響、大規模な不連続性に伴う影響に関連するコストなどを通じて、54~69兆米ドルの損失が発生する」とあります。

金融市場の安定化のためには、気候変動の問題は乗り越えなければならない必須の課題なのです。

(3) TCFD賛同企業・機関

① TCFD賛同企業・機関数(世界) ~日本は世界1位~

2021年11月25日現在、TCFDに対して、金融機関・公的機関を中心として、世界全体で2627の企業・機関が賛同を示し、日本では、590の企業・機関(国別賛同機関数:世界1位)が賛同の意を示しており、概ね日本の上場企業の約10%が賛同していることになります。
賛同表明している金融機関の資産総額は、既に150兆USドルを超え、現在も増加しています。

(出所) TCFDコンソーシアムホームページ
(出所) TCFDコンソーシアムホームページ

② TCFD賛同企業・機関(日本)

金融庁・環境省・経済産業省・日本証券取引所なども正式に賛同の意を表明しています。
また、 KPMGが作成した「日本企業の統合報告に関する調査2020」によると、日経225構成企業におけるTCFD賛同企業の割合は64%(2020年12月31日時点、前年は45%)と増加傾向にあります。
業種別では、「金融」、「素材・建築物」、「電機・機械・通信」が上位を占めています(2021年2月8日現在)。

(出所) 環境省ホームページ

なお、最新のTCFD賛同企業・機関は、経済産業省ホームページで確認できます。

(4) TCFD提言に沿った開示の現状(日本) ~現状、統合報告書が中心~

KPMGが2021年3月に公表した『日本企業の統合報告に関する調査2020』によると、日経225構成企業でTCFDに賛同する145社のうち、84%が統合報告書上で『TCFDヘ賛同している旨』を開示しており、統合報告書上で『TCFD提言に沿った開示』を行う企業は76%に対し、有価証券報告書上で『TCFD提言に沿った開示』を行う企業は8%でした。
現在のTCFD提言に沿った開示は、有価証券報告書(法定開示資料)ではなく、任意の統合報告書が中心となっています。

(出所) KPMGホームページ

3. CGC改訂による開示内容の変更 ~気候変動関係~

(1) CGC改訂による開示内容の変更

2021年6月11日のCGCの改訂による気候変動関係の主な追加・変更内容は、以下の3つです。

主な変更/追加内容(気候変動関係)
・ 『サステナビリティを巡る課題』の具体例を列挙(追加)
   気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、フェアトレードなど具体的に列挙
・ 『サステナビリティを巡る課題』の位置づけ(変更)
   「リスク」⇒「リスク&成長の機会」に変更
プライム市場上場会社のTCFD提言に沿った開示の実質義務化(追加)

『サステナビリティを巡る課題』の具体例の列挙により、より詳細な開示を促すと共に、気候変動を”リスク”だけではなく、”成長の機会”と捉え、企業が気候変動対策に積極的に取り組むことを促しています

【参考】
SASBなどによるTCFD実務ガイドによると、パリ協定の目標が達成される場合、なりゆきシナリオと比較して今後12年間で26兆米ドルの経済的利益がもたらされる可能性があるとしています。

(2) TCFD提言に沿った開示の実質義務化(プライム市場)

上場区分(東証再編後)TCFD提言に沿った開示の要否
プライム市場実質的に義務化
(開示しない場合、その理由を説明)
スタンダード市場・グロース市場任意(ただし、推奨)

CGCでは、「プライム市場(※1)上場会社はTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」とあり、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原則からすると、プライム市場においてTCFD提言に沿った開示は実質的に義務化されたといえます。

なお、3月期決算企業の場合、2022年6月の株主総会後に提出するCGC報告書から記載が必要となります。

(3) 有価証券報告書での開示の義務化が検討

現状、TCFD提言に沿った開示の実質義務化は、プライム市場上場会社にとどまっていますが、「ガバナンス」・「リスク管理」を中心に有価証券報告書上での開示の義務化も検討されています。

気候関連シナリオ分析(後述)などTCFD提言に沿った開示には相当な工数を要します。
したがって、スタンダード市場・グロース市場上場会社も少しずつTCFD提言に沿った開示内容の理解や具体的な情報収集・検討を進めることが望まれます

(※1)本コラム「9. 市場区分の見直しと「プライム市場」の位置づけ」を参照のこと。

(出所) 日本取引所グループホームページ

4. TCFD提言に沿った開示とは

では、具体的に何を開示すべきか見ていきましょう。

(1) TCFD提言の開示要求項目の概要

TCFD提言による開示要求項目は、『ガバナンス』・『戦略』・『リスク管理』・『指標と目標』の4つです。

特に影響が大きい開示内容は、以下の通りです。

  • 取締役会による監視体制』・『経営者の役割』の説明が求められること
  • いわゆる『気候関連シナリオ分析』が求められること
  • 温室効果ガス排出量』 の算定と開示が求められること。
    しかも、サプライチェーンベース(SBT Scope3(下図参照。))での算定と開示が求められていること
  • 中長期的な目標』の設定と目標に対する『実績』の開示が求められること

(2) 従来の環境情報開示との違い

TCFD提言に沿った開示と従来の環境情報の開示との違いは、以下の通りです。

従来の開示は『現在の取り組み』が中心であるのに対して、TCFD提言に沿った開示は、『未来視点』から気候変動リスクを加味し、企業の持続可能性を他者が分析・評価できる情報の開示を求めています。

具体的には、①気候変動を経営の重要課題として扱っているか、②気候変動のリスク要因を把握・管理しながら、技術革新などの機会として活用しているか、③その事前にインパクトを評価しそれでも経営が続けられるか、④温室効果ガス排出量の現状を把握し、2050年のカーボンニュートラルという全世界の目標との整合性はどうか、などの観点からの開示が求められる点が、従来の環境開示との違いです。

(3) TCFDに対応しないことのリスク

全世界的に開示の義務化が検討されている中で、TCFDに対応しないことは、短期的には投資家等からの気候変動に対する姿勢を問われ、ブランドイメージが低下する可能性があります。

また、TCFDに対応しないことは、中長期的には、リスクが管理できず、突発的な気候関連リスクの顕在化により大規模な財務的な損失を受けるなど、経営基盤の弱体化につながります。

(出所) 経産省ホームページ資料を当社一部加工

(4) 望まれる財務報告書での開示

TCFD提言では、『組織が自国の開示要件(日本なら日本の法令)に則って財務情報開示を行うべきということである』としながらも、特に4つのテーマの中の「ガバナンス」と「リスク管理」について、全ての企業が財務報告書により開示することが望ましいとしています。

(出所) 環境省ホームページ

なお、TCFDに賛同する日本企業の開示媒体の事例は、以下の通りです。

会社名財務報告書財務報告書以外
株式会社丸井グループ有価証券報告書においてTCFD提言の各項目(シナリオ分析含む)に沿った対応を記載した上で、グループの「共創サステナビリティ経営」は「共創経営レポート」、「VISION BOOK 2050」を参照するよう記載「共創経営レポート」においてシ
ナリオ分析及び財務影響の試
算結果の詳細を記載
積水ハウス株式会社有価証券報告書において、
「TCFDレポート」を発行
したことを記載
「TCFDレポート」においてシナリオ分析結果を含むTCFDへの対応について詳細に記載

(5) 『気候関連リスク』と『気候関連機会』とは

① 気候関連リスクの具体例

TCFD提言では、気候関連リスクを低炭素経済への『移行』に関するリスクと気候変動による『物理的』変化に関するリスクに大別しています。

(出所) 環境省ホームページ

② 『気候関連機会』の具体例

TCFD提言では、気候変動緩和策・適応策による経営改革の機会を5つに分類し例示しています。

(出所) 環境省ホームページ

③ 『気候関連リスク』と『機会』が与える財務影響

TCFD提言では、上記のような気候関連リスク・機会と財務上の影響の開示対象を例示しています。

(出所) 環境省ホームページ

(6) TCFDシナリオ分析の意義と開示状況

① TCFDシナリオ分析の意義

TCFDは、1.5℃や2℃シナリオを含めた複数シナリオにおいて、気候関連リスク・機会の財務影響を評価することを求めており、手段としてシナリオ分析を活用することを推奨しています。
シナリオ分析は、将来の不確実性に対応した戦略立案と内外対話を可能にする手段として活用されています。

(出所) 環境省ホームページ

なお、シナリオ分析の主な意義は、以下の通りです。

  • 将来の変化に柔軟に対応する経営が可能
  • 将来について、主観を排除した議論が可能
  • 事業のレジリエンスの主張が可能

➁ TCFDシナリオ分析の開示状況

TCFDコンソーシアムがTCFDコンソーシアムに参加する企業に行った『2021年度 TCFDコンソーシアムTCFD開示・活用に関するアンケート調査』によると、非金融機関の回答企業のうち、「シナリオ分析を実施済み(対外開示していない企業も含む)」と回答した企業は、過半数(54%)となりました。
TCFDに賛同する規模の大きい上場会社を中心に、着実にシナリオ分析が進みつつあります。

(出所) TCFDコンソーシアムホームページ

(7) 金融機関が行う企業のTCFD開示の利活用方法

TCFDコンソーシアムが行った『2021年度 TCFDコンソーシアムTCFD開示・活用に関するアンケート調査』によると、金融機関の企業のTCFD提言に沿った開示の利活用方法としては、依然として企業との対話ツールとして利用することが第1位であるが、近年においては、投融資意思決定・スクリーニングの一要素として利活用が進んでいます

(出所) TCFDコンソーシアムホームページ

したがって、金融機関とのコミュニケーションを円滑に進める上でも、彼らのESG投資銘柄として選定されるためにも、TCFD提言に沿った開示の重要性は今後も高まっていくと言えます。

(8) 業種別ガイダンス

TCFDコンソーシアムが2020年7月に公表した「TCFDガイダンス2.0」の中で、以下の業種別の開示ガイダンスが公表されています。 該当業種である場合、是非一度ご覧ください。

  • 自動車鉄鋼化学電機・電子エネルギー食品銀行生命保険損害保険

5. TCFD提言に沿った開示が求められる背景

(1) パリ協定とは (2015年12月)

① パリ協定の概要 ~平均気温の上昇の目標 2℃以下(努力目標 1.5℃以下)~

パリ協定は、2015年12月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、世界約200か国が合意して成立しました。
「京都議定書(1997年)」の後を継ぎ、”世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求すること”を目的としています。

(出所) WWFホームページ

その達成のために、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示す科学的根拠に基づいて、”21世紀末のなるべく早期に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすること”、つまり「脱炭素化」を長期目標として定めています。

IPCCの1.5度特別報告書(2018年発表)によれば、すでに世界の平均気温は、産業革命前に比べて人間活動によって約1℃上昇しており、このままの経済活動が続けば、早ければ2030年には1.5℃の上昇に達し2050年には4℃程度の気温上昇が見込まれています。

気温上昇を2℃未満に抑えるためには、2075年頃には脱炭素化する必要があり、努力目標である1.5℃に抑えるためには、2030年までにCO2排出量を半減し、2050年に脱炭素化しなければならないことが分かっています。

この報告書では、温暖化の影響は1.5℃の上昇でも大きいが2℃になるとさらに深刻になり、わずか0.5度の気温上昇の差で温暖化の影響は大きく異なると警告し、1.5度未満の抑制が必要であると訴えている。
例えば、熱波に襲われる人の数は1.5度の上昇と比べ2度だと約17億人増え、生物種の消失も一気に進むと言われています。

すなわち、パリ協定のゴールを達成するには、遅くとも2075年に脱炭素化、できれば2050年までに脱炭素社会を実現させることが必要です。

② パリ協定のルールの概要 ~5年毎の更新と途上国へのサポート~

パリ協定において、すべての国に対して以下の3つのルールを設けています。

ルールルール概要
削減目標を5年ごとに深掘りすべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること。
 更新の際には、目標を深掘りすること
・ 5年ごとに世界全体として、2度(1.5度)目標に沿った削減ができているか等についてレビューすること(グローバル・ストックテイク)
削減実施状況の国際的な「見える化」・ すべての国が排出削減の取り組みについて、その実施状況を、原則として共通のルールで国連に報告し、検証を受けること
適応計画と、途上国への資金・技術支援・ 各国が温暖化の悪影響に対する適応の計画を立て実施すること、その適応報告書を定期的に提出更新すること
・ 途上国の削減や適応を支援するために、緑の気候基金(GCF)が設置された。 先進国が資金を提供することになっているが、途上国も自主的に供与
(出所) WWFホームページ

2度未満に気温上昇を抑えることができたとしても、異常気象や海面上昇などの温暖化の悪影響は避けらません
そのため、こういった悪影響に対応するための適応策の強化や、途上国の持続可能な開発を支援する資金や技術供与の仕組みも、パリ協定の大きな要素として組み込まれています。

(2) FSB議長によるスピーチ(2015年9月)

金融安定理事会(FSB)議長・英国中央銀行総裁(当時)が、2015年9月のスピーチにおいて、気候変動は以下の3つの経路から”金融システムの安定を損なう恐れ”があるとの考えを示しました。

同時に、サブプライムローンのようにいつか爆発する可能性を言及しました。
金融市場安定化のためには、気候変動問題への対処は欠かせないのです。

(3) 各国の脱炭素目標の表明

① 各国の脱炭素宣言

各国・機関投資家が脱炭素目標を宣言し、企業も脱炭素経営が求められています。

(出所) 経産省ホームページ

② TCFDを巡る各国の取組状況

主要各国の気候変動開示をめぐる動きは、以下の通りです。
世界では、「TCFDの開示を義務化するか」、「義務化するなら、義務化する会社のスコープはどうするか」、「開示は、法的開示資料(有価証券報告書など)で行うか」などが議論されています。

(出所) 金融庁ホームページを基に当社一部加工

注目すべき点は、イギリス政府が、2021年10月28日、大企業及び指定金融機関に対し、TCFD提言に沿った開示の義務化する会社法規則案を発表したことです。
日本は、イギリスも参考に法整備化が進んでいるため、気候変動開示の充実に向けた動きはより加速するでしょう。

(4) ”投資家”の脱炭素意識の高まり

① PFI(責任投資原則)による開示の義務化

2021年3月末のPRI署名数は3,826機関、運用資産合計額は約121兆ドルとなっています。
また、日本サステナブル投資フォーラムによると、2021年3月末の国内運用資産合計額は約514兆円(総運用資産に占める割合61.5%)となっています。
PRIは、2020年より署名した投資家に気候変動関連情報をPRIに報告するよう義務化(対外開示は任意)しています。

(出所) PRIホームページ

日本でも約200兆円の年金資産を管理・運用するGPIFは2015年にPRIに署名しており、日本におけるESG投資は、2019年には3兆ドルに達し、2016年から3年で約6倍になっています。

(出所) GPIFホームページ
  • 責任投資原則(PRI):国際連合が2006年に公表し、加盟する機関投資家等が投資ポートフォリオの基本課題への取り組みについて署名した一連の投資原則である。PRIは世界経済で大きな役割を果たす投資家等が、投資を通じて環境問題(Environment)や社会問題(Social)、企業統治(Governance)について責任を全うする際に必要な6つの原則を明示している。
  • ESG投資:Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の3つの観点から企業の将来性や持続性などを分析・評価した上で、投資先(企業等)を選別する方法のこと

② 機関投資家・資産運用会社による開示の義務化

機関投資家が、企業へ具体的な脱炭素目標を要請する動きや、投融資先のCO2排出量実質ゼロを宣言する動きがみられています。

(出所) 環境省ホームページを基に当社一部加工
(出所) 環境省ホームページを基に当社一部加工

特に、運用資産残高が9.46兆米ドル(約1,056兆円)にのぼる世界最大の運用会社であるブラックロックのCEOが2020年の年頭書簡において、「投資先企業がサステナビリティに関連した情報開示、その根本となる事業活動や計画において十分な進展を示せない場合には、経営陣と取締役に対して、反対票を投じることについて、より積極的に検討します。」 と踏み込んだ発言をしており、2021年の年頭書簡において、「TCFDレポートは、企業が直面する最も重要性の高い気候関連リスクと企業の対応状況について、投資家が理解する上で有益なグローバル基準」と話しており、機関投資家によるTCFDを含むサステナビリティ経営の情報開示の強化を求める声は高まる一方です。
(2021年9月末時点、1ドル=111.575円換算)

(5) ”企業”の脱炭素意識の高まり

① 経営者が感じるリスクとリスクと機会の増大

世界経済フォーラム(WEF)が行った「グローバルリスク報告書2021年版」によると、世界の政治・経済などの専門家・経営者が予想するグローバルリスクトップ10に、気候変動に関する環境・社会リスクが上位にランクインしています。
グローバルリーダーの中では、”気候変動は中長期的な経済成長には無視できない課題”との共通認識があります。

(出所) 環境省ホームページ

また、炭素価格は、1万円~2万円程度(2040年)まで上昇する可能があると考えられており、企業にとっては大きな重荷になる可能性をはらんでいます。

(出所) 環境省ホームページ

② 国際的な環境イニシアチブへの参加の加速化

日本の企業も脱炭素への取り組みを加速させており、TCFD・SBT・RE100などの国際的な環境イニシアチブに参加する企業数は世界トップクラスになっています。

(出所) 環境省ホームページ

なお、脱炭素に積極的に取り組むことの主な効果としては、以下の4つが挙げられます。

  • イノベーションの加速化
  • 企業のブランドイメージの向上
  • コスト競争力の強化 ~化石燃料の高騰・炭素税の軽減など~
  • 気候変動にかかる法改正があっても円滑に移行

(6) “自治体”の脱炭素意識の高まり

2021年10月29日現在、東京都・京都市・横浜市を始めとする479自治体(40都道府県、287市、12特別区、116町、24村)が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明し、表明自治体総人口は約1億1,177万人と日本の総人口カバー率9割を超える状況となっています。

(出所) 環境省ホームページ

6. 『脱炭素』関連コラム

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7. 市場区分の見直しと「プライム市場」の位置づけ

東証は、下記の既存課題を踏まえて市場区分の見直しに向けた検討を進め、2022年4月4日に、現在の市場区分を「プライム市場・スタンダード市場・グロース市場」の3つの市場区分に見直します。

≪既存の課題≫
・ 各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとっての利便性が低い。
・ 上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない。

(出所) 日本取引所グループホームページ

各市場区分のコンセプトに応じて、流動性やコーポレート・ガバナンスなどに係る定量的・定性的な上場基準をそれぞれ設けます。
すなわち、「プライム市場」>「スタンダード市場」>「グロース市場」の順で、流動性やコーポレート・ガバナンスで要求される対応の深度及び開示が変化します。

そのうち、実質最上位となるプライム市場とは、「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」と定義されています。

なお、プライム市場の上場基準(概要)は、以下の通りです。

(出所) 日本取引所グループホームページ

8. コーポレートガバナンス・コードの改訂(2021年6月)

2021年6月11日にCGCが改訂されました。
主なCGCの改訂内容の一つが、「サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み」が追加されたことです。

(出所)日本証券取引所グループホームページ
主な変更/追加内容(気候変動関係)
・ 『サステナビリティを巡る課題』の具体例を列挙(追加)
   気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、フェアトレードなど具体的に列挙
・ 『サステナビリティを巡る課題』の位置づけ(変更)
   「リスク」⇒「リスク&成長の機会」に変更
プライム市場上場会社のTCFD提言に沿った開示の実質義務化(追加)

CGCの改訂後の文面は、以下の通りです。

(出所)日本証券取引所グループホームページ
(出所)日本証券取引所グループホームページ

また、今回のCGCの改訂では、気候変動関係のほかに、『プライム市場上場会社の英語での開示』『女性の活躍推進を含む社内の多様性の確保』などが追加されています。
以下は、追加された条文の抜粋(太文字が追加部分)は、以下の通りです。

  • 上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・ 提供を進めるべきである。特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。
  • 上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

9. そもそも脱炭素(カーボンニュートラル)とは

(1) 脱炭素(カーボンニュートラル)とは

カーボンニュートラルとは、”二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、森林などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること”です。

(出所) 環境省ホームページ

なお、2021年4月22日~23日に行われた気候変動サミットなどで各国が掲げた削減目標の一例は、以下の通りです。

日本も2030年までにCo2排出量を46%削減(2013年度比)するという非常に高い目標を掲げており、目標を達成するためには、国・自治体だけでなく、特に産業界の行動変容がカギとなります。

(出所) 資源エネルギー庁ホームページ

(2) 政府がカーボンニュートラルを推し進める背景

では、なぜ政府はカーボンニュートラルを推し進めるために、税金を優遇し補助金を設けているのでしょうか。

それは、国際社会の中で決めたルールを守る責務もありますが、カーボンニュートラルによる変革が、”経済成長のために不可欠なカギ”、すなわち、”イノベーション創出を促すドライバー”と政府が捉えているためです。

2020年10年26日に、菅総理大臣が2050年にカーボンニュートラルや脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、経済産業省が中心となって「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しています。
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」 で、下記のように政府が全力でカーボンニュートラルに取り組む背景が書かれています。

  • 温暖化への対応を、経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも、成長の機会ととらえる時代に突入したのである。従来の発想を転換し、積極的に対策を行うことが、産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながっていく。こうした「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策が、グリーン成長戦略である。
  • 産業界には、これまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要がある企業が数多く存在する。他方、新しい時代をリードしていくチャンスでもある。大胆な投資をし、イノベーションを起こすといった民間企業の前向きな挑戦を、全力で応援するのが、政府の役割である。

すなわち、過去は気候変動対策は経済成長への足かせと考えられてきましたが、政府は、気候変動対策は”成長の機会”と捉え、「グリーン成長戦略」を打ち出しています
そのような国の動きに連動し、大胆な改革を行うチャレンジングな会社を後押しするため、政府は、予算・税制・金融・規制改革&標準化・国際連携などあらゆるものを総動員してカーボンニュートラルを押し進めているのです。

(出所) 「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より当社が一部抜粋

(3) グリーン成長戦略とは ~14つの重要分野~

「グリーン成長戦略」では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、今後、産業として成長が期待され、なおかつ温室効果ガスの排出を削減する観点からも取り組みが不可欠と考えられる分野として、14の重要分野を設定しています。

エネルギー関連産業 ①洋上風力、②燃料アンモニア、③水素、④原子力
輸送・製造関連産業⑤自動車・蓄電池、⑥半導体・情報通信、⑦船舶、⑧物流・人流・土木インフラ、⑨食料・農林水産業、⑩航空機、⑪カーボンリサイクル
家庭・オフィス関連産業 ⑫住宅・建築物/次世代型太陽光、⑬資源循環、⑭ライフスタイル

14分野は幅広く、成長のフェーズもそれぞれの分野で異なります。
そのため、政府は、分野ごとに2050年までの「工程表」も合わせてつくり、省庁横断で対応しています。

基本的には、政府は、この14分野に集中的に規制改革に加えて予算・税制の強化を図っています。
すなわち、自社の事業が14分野に関連する場合、補助金など様々な国からのサポートを受けられる可能性が高いです。
14分野に関連する場合、脱炭素推進のために活用できるプランがないか、関連省庁・自治体などのHPの閲覧などにより情報収集していきましょう。

(出所) 資源エネルギー庁ホームページ

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小林孝嗣

公認会計士
国際文化政策研究教育学会 会員
脱炭素経営促進ネットワーク (環境省) 支援会員

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