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避けると仕事がなくなる‼サプライヤーに求められる脱炭素経営

執筆者:小林孝嗣

公認会計士/㈱文化資本創研 代表取締役社長
国際文化政策研究教育学会 会員

㈱文化資本創研とは
サステナビリティ経営のための産学連携会社。
京都大学含む10以上の大学・研究機関の教授・研究者と公認会計士・IRスペシャリスト・データアナリスト・プロダクトデザイナーなど実務のプロ集団が協働で企業のサステナビリティ経営の実装を支援している。
国際文化政策研究教育学会などと連携。 脱炭素経営促進ネットワーク (環境省) 支援会員

「脱炭素対応を怠ると、仕事がなくなる!」   
今一番伝えたいメッセージの一つです。

脱炭素問題は、自社が関心があるか否かに関わらずほとんどすべての企業が影響を受けます
まだ目に見える変化はありませんが、3~5年後には「脱炭素による取引先の選別」が必ず起こります。
実際、海外では脱炭素を怠った企業が得意先から取引停止処分を受けることが起こり始めています。

つまり、脱炭素経営は「企業継続のためのパスポート」であるといっても過言ではありません。   
中小企業であろうとも、「何もやっていません。」では済まされない時代が2030年には来ます

今回は、国内外の大企業がサプライヤーに対してどのような要請をし始めているか、それに対してどのような準備をしたいかを紹介します。

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目次

  1. 脱炭素の3つのキーワードと最近のトレンド
  2. サプライチェーンへの脱炭素の要請
  3. サプライチェーンとしての脱炭素を考える上で最初に確認したい3つのこと

1. 脱炭素の3つのキーワードと最近のトレンド~SBT・RE100・CDP

まず、脱炭素関連で知っておきたい3つのキーワードと2つのトレンドをご紹介します。

(1) 脱炭素の3つのキーワード ~SBT・RE100・CDP~

① SBT

SBTとは、「Science Based Target」の略称であり、WWF、CDP、WRI、国連グローバル・コンパクトにより立ち上げられた国際的イニシアティブのことです。
具体的には、「パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標」のことです。
2021年3月19日時点で、SBTの参加企業数は世界で1,274社、日本で122社(認定取得:93社、コミット:29社)であり、日本は米国に次いで世界第2位です。
参加企業は、世界的には食品業界が多いですが、日本では電気機器・建設業・食料品メーカーを中心として加盟が進んでいます。
参加している日本企業(認定取得)は、下表の通りです。

出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)

② RE100

RE100とは、「Renewable Energy 100%」の略称であり、The Climate Group(イギリスの国際環境NGO)により2014年に設立された国際的イニシアティブのことです。
具体的には、「企業活動に必要なエネルギーを100%再エネ電力で賄うことを目標とする取り組み」のことです。

出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)

RE100 Annual Report 2020によると、53社が2020年までに100%再エネ電力を達成したとされており、参加企業のうち、76%の企業が2030年までに100%再エネ電力になる見込みであるとしています。

出所:RE100 Annual Report 2020

2021年3月19日現在、RE100の参加企業数は世界で292社、日本では2017年4月にリコーが参加したことを皮切りに50社が参加しています(世界第2位)。
参加企業の株式時価総額合計は約15兆ドルと世界の株式時価総額の15%程度を占める割合になっています(2020年12月末現在)。
参加企業は、世界的には金融業が多いですが、日本では電気機器・建設業・小売業を中心として加盟が進んでいます。
参加している日本企業は、下表の通りです。

出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)

③ CDP

CDPとは、「Carbon Disclosure Project」の略称であり、英国の国際環境NGOが2000年に設立したプロジェクトのことです。
具体的には、時価総額の高い世界の企業約5,000社に対して、毎年気候変動質問書を送付し、企業の環境情報公開や環境活動を「A」から「D」の8段階で評価しています。
CDP気候変動レポート2020(日本版)によると、送付した500社のうち、65%の会社が回答し、53社が「A」評価を受けており、気候変動対策に積極的に取り組む日本企業が増えていることを示しています。
また、CDPデータは、ESG投資における基礎データとして機関投資家らに利用されています。

このように、SBT・RE100に参加、また、CDPの調査に協力する日本企業は増えてきており、参加・協力することで脱炭素対応に積極的であるシグナルを対外的に発信することができます。

(2) サプライチェーンに関わる脱炭素の2つのトレンド

知っておきたい2つのことは、「脱炭素イニシアティブへの参加企業数が急増していること」・サプライヤーへ脱炭素対応を要請し始めていることです。

脱炭素イニシアティブへの参加企業数が急増していること

2021年3月において5年前と比べて、SBTの参加企業数は世界で12.6倍、日本で17.4倍、RE100の参加企業数は世界で5.2倍、日本で0社から50社となり、急増しています。

出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)
出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)
出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)

RE100参加企業の株式時価総額合計は世界の株式時価総額の約15%を占めており、もはや、グローバル企業では”気候変動イニシアティブへの参加は当たり前になってきています。

さらに、中小企業でもSBTなどに参加する企業が出てきています。

したがって、まだ参加していない企業は、投資家などから「脱炭素対応への取り組みが消極的である」とレッテルをはられる可能性すらあります。

中小企業も含め、株主を含むステークホルダーからの信頼を維持・向上させるために、SBT・RE100などへの加盟も含め、同業他社の動向なども考慮しながら、脱炭素の対応を前進させることが急務と言えます。

サプライヤーへ脱炭素対応を要請し始めていること

脱炭素の取り組みはサプライヤーにも対応を求めるケースが一般化しつつあります。
次章で詳しく説明します。

2. サプライチェーンへの脱炭素の要請

次は、サプライヤーに対する脱炭素要請のトレンド及び国内外でのサプライヤーを巻き込んだ脱炭素の取り組みについてご紹介します。

(1) 進むサプライヤーへの脱炭素要請
 

RE100参加企業は、サプライチェーンに対しても100%再エネの使用を求めることが主流になっています。                                               RE100 Annual Report 2019によると、参加企業の44%が再エネ調達について「サプライヤーと対話を実施済」と回答し、17%が「今後2年以内にサプライヤーとの対話を実施する」としています。 
すなわち、少なくとも参加企業のうち、61%の企業はサプライヤーに対して再生可能エネルギーを調達するよう促す働きかけを始めており、今後も増加するとみられています。

また、SBTでは、Co2排出量削減目標の設定方法が3つ(Scope1、Scope2、Scope3)あり、サプライチェーンも含んだ形でのCo2排出量目標を設定Scope3という。下表参照。)する手法があります。

出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)

近年、自社単独の削減目標だけでなく、上流(部材の製造・配送など)や下流(製品の使用・廃棄など)までを含めたScope3での目標設定をする企業が国内外とも主流になりつつあり、サプライヤーに対して脱炭素のプレシャーが高まっています。

では、次は具体的な企業の動きを見ていきましょう。

(2) サプライヤーへの脱炭素要請の事例~海外~

次に、海外におけるサプライヤーへの要請事例について見ていきましょう。

① アップル ~サプライヤーへの2030年カーボンニュートラル要請~

アップルは、早くからRE100に取り組んでおり、風力発電や太陽光発電等から電力を調達することにより自社単独でのRE100を2018年に達成しています。 
アップルは「2030年までにプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」し、サプライヤーにもカーボンニュートラルを求めています。 
その要請に応じて、110社以上のサプライヤーがApple向け製品の2030年までのカーボンニュートラル達成に署名しており、日本企業では日東電工、日本電産、ソニーセミコンダクタ―ソリューション、セイコーアドバンス、太陽HDなどが署名しています。
すなわち、これらの会社は少なくともアップル向けのラインについては2030年までにカーボンニュートラルを達成する必要があるため、アップルのような海外企業に直接製品を納めてなくても、自社がアップルのサプライヤー日本企業に製品を納めている場合、脱炭素対応を確実に求められます

② ダイムラー ~脱炭素合意が取引基本条件の一つ~

ドイツ自動車大手ダイムラーは、「2039年までに同社が販売する乗用車すべてをカーボンニュートラル自動車とする」としており、特に2030年までに高級車部門「メルセデス・ベンツ」の新車全てを電気自動車にする計画だと発表しています。
同社は、サプライヤーに対して自社のカーボンニュートラル目標の実現に向けた基本合意書へのサインを求め、署名をしない新規サプライヤーとは取引を行わない方針を掲げており、既存サプライヤーを含め約半数が基本合意書にサインをしています。

まさに、「脱炭素対応しなければ、仕事がなくなる!」という現象が起こり始めています。

その他にも、ダイムラー社と同様、ポルシェが100%再生エネルギーを利用しない部品サプライヤーは将来的に契約締結しないと明言しており、ウォルマート(小売業)、DELL、Pfizer(衣料品)などグローバル企業の多くが既にサプライヤーに対してCo2の削減行動を要求しています。

欧州を中心に、「脱炭素していないと、大手に商品が納めれない」という時代があと5年くらいで高い確率で起こるでしょう。

(3) サプライヤーへの脱炭素要請の事例~日本~

次に、日本におけるサプライヤーへの要請事例について見ていきましょう。

注目すべき点は、業種が多岐であることです。
製造業に限らず、食品関係、不動産、小売業まで幅広い業種の企業がサプライヤーに対して脱炭素の要請を進めています。

① 積水ハウス ~サプライヤーへ再生エネルギー100%要求~

積水ハウスは、自社のRE100を2030年までに達成する見込みですが、サプライヤーに対しても事業で使用する電力を再生エネ100%にすることを求め、SBTの導入をサプライヤー約400社に呼びかけています。

② トヨタ自動車 ~1次取引先へCO2排出量3%削減要請~

トヨタ自動車も、2035年までに世界の自社工場のCo2排出量をゼロにする「グリーンファクトリー」構想を掲げており、1次取引先300〜400社に対し、2021年度のCO2排出量の削減目標として前年比3%減を要請しました。 
同社からサプライヤーに対する具体的な削減目標の要請が明らかになったのは初めてであり、今後、1次取引先から材料や部品を調達する2次・3次取引先へとこの動きが広がっていくことは必至と言えます。

③ セイコーエプソン ~サプライチェーンと協力してGHG排出量半減を目指す~

セイコーエプソンは、2050年に、「カーボンマイナス」および「地下資源消費ゼロ」を目指すと表明していますが、サプライヤー1700社と協力して、2030年までに温室効果ガス排出量を2017年度の半分に減らすことを目標として動き始めています。

④ リクルート ~2030年サプライチェーン全体でカーボンニュートラル~

リクルートHDも、2030年までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを目指すと発表しています。

出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(環境省)

このように、日本でもサプライヤーに対する脱炭素要請は日に日に高まっています。

また、現状は1次サプライヤー中心ですが、その範囲は2次・3次取引先のような中小企業への波及していくことは間違いありません。

今後、「脱炭素を基準とした取引先の選別」があらゆるところで起こります。
したがって、脱炭素は“対岸の火事”とは考えず、自分ごととして考える。 
そういった姿勢と先手先手の対応が事業継続のカギであると言えます。

3. サプライチェーンとしての脱炭素を考える上で 最初に確認したい3つのこと

では、まず何から始めればいいでしょうか? 
具体的なCo2削減活動に着手する前に、まず得意先などから脱炭素要請がいつどのような形でくるかの予測から始めることも一つの方法です。

Step1:主要製品のサプライチェーンの特定

現状主力である、又は、今後注力予定の製品・サービス(以下、主力製品)について、製品別・相手先別情報を入手します。
その上で、主力製品の直接販売先だけでなく最終消費者までのサプライチェーンを特定します。

 Step2:脱炭素方針の調査・分析

主要製品のサプライチェーンに含まれる主要企業を抽出し、主要企業の脱炭素方針を分析します。    
また、自社の業種及びサプライチェーンの主要企業の業種における競合他社の動向などを調査・分析し、今後の脱炭素対応の時期・程度などを予測します。

Step3:自社のCo2排出源の特定と改善余地の検討

主力製品のCo2排出源の特定をします。その上で実際の排出量の現状分析を行い、自社製造プロセスの見直し・再生可能エネルギーの使用の可否など改善余地などを検討します。

現時点で取引先からの具体的な脱炭素要請がない段階においては、上記3つのステップにより、脱炭素へ向けた一歩をスタートするといいでしょう。

いかがでしたか?

気候変動問題は、大企業だけでなく“すべての企業が対処しなければいけない中長期的な重要課題”という認識を持つことが非常に大切です。

取引先から要請されてから準備したのでは、間に合いません。  
先手先手で「気候変動対応リスク」を分析し、企業戦略に組み込み、取引先から要請される前にCo2排出削減の実際の行動に移っていくことが必要です。

「脱炭素を怠ると、仕事がなくなる!」    

そうならないためにも、先手先手の準備をしていきましょう!

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<「脱炭素」×「サプライチェーン」 注目ニュース>
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