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世界が「脱炭素」にホンキなワケ

小林孝嗣

公認会計士/(株)文化資本創研
国際文化政策研究教育学会 会員

㈱文化資本創研とは
サステナビリティ経営のための産学連携会社。
主な事業は、SDGs・脱炭素経営の実装支援、オープンイノベーション加速化事業、経済効果測定・データ分析。
大阪・関西万博2025への産学連携共同参画プロジェクトも展開。
京都大学含む10以上の大学・研究機関の教授・研究者と公認会計士・IRスペシャリスト・データアナリスト・プロダクトデザイナーなど実務のプロ集団が協働で企業のサステナビリティ経営の実装を支援している。
国際文化政策研究教育学会などと連携。 脱炭素経営促進ネットワーク (環境省) 支援会員

「脱炭素」 
 最近、この話題を耳にすることが多いと思います。

 実は、この問題は大企業の問題だけではなく、多くの企業にとっても”対応を怠ると仕事がなくなる” 可能性を引き起こすテーマです。

 今回は、以下の2テーマのうち、「世界が「脱炭素」にホンキなワケ」をご紹介します。

  1. 世界が「脱炭素」にホンキなワケ
  2. 仕事がなくなる!? すべての企業が無視できない日本の主要企業の「脱炭素」の動き

1. 過去の失敗~京都議定書~

 環境問題でいうと、1997年に京都で採択された京都議定書を思い出される方もいらっしゃると思います。1997年に京都で国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP3:Conference of Parties)を開催され、この会議において採択されたのが、「京都議定書」という国際条約です。

 「温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で約5%削減すること」という目標を掲げたものの、アメリカが京都議定書体制を脱退するなど十分な結果が出ずに終わりました

 その理由は、当時は「脱炭素」にホンキで取り組む国・企業が少なかったからです。

2. 世界も日本もホンキの脱炭素

 今回は違います。世界も日本もホンキです。

 気温上昇に伴う様々な災害等の諸問題が顕在化してきた危機感により、2015年にパリで温暖化対策の新たな枠組みであるパリ協定が締結されたことが大きな要因です。

 ただそれだけでは国も企業もホンキになりませんそれ以外にもホンキにさせる理由があります。

  1. 再生可能エネルギーの低価格化
  2. ビジネスチャンスになる再生可能エネルギー
  3. 若い世代の消費行動シフト
  4. 外交カード

① 再生可能エネルギーの低価格化

 世界全体の再生可能エネルギーの発電設備容量は年間約180GW増加しているとの推計があり、毎年約8%程度再生可能エネルギーが増加しています。

資源エネルギー庁HPより

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2019年に追加された再生可能発電容量の半数以上は、最も安価な新規石炭火力発電所よりも低い電力コストを達成した2019年における再生可能エネルギー発電コストで報告しています。再生可能エネルギーによる発電コストは、技術の進歩・規模の拡大・サプライチェーンの競争力強化・開発企業による経験の蓄積により過去10年間で大きく低下しており、2010年に比して、太陽光発電のコストは82%低下し、集光型太陽光発電(CSP)は47%、陸上風力発電は39%、洋上風力発電は29%低下していると報告されています。

 下表は、日本における事業用太陽光発電のコストの実績と見通しです。2030年には5.8円/kWhとなる見通しであり、2014年に比して約6分の1と日本においても発電効率が一段と高まっています。

資源エネルギー庁HPよ

 すなわち、技術の進歩により発電効率が劇的に改善し、企業などが経済面でも再生可能エネルギーを取り組みやすくなっていることも再生可能エネルギーへの転換のハードルを下げている要因と言えます。

 ただし、日本では欧米に比して再生可能エネルギーの発電コストが高止まりしているため、日本における再生可能エネルギーの発電比率は16.9%(2018年)と欧米に比べて低く、②そのコスト競争力の低さとノウハウ不足が欧米企業に再生可能エネルギー事業の日本への輸出のチャンスを与えています。

資源エネルギー庁HPより

② ビジネスチャンスになる再生可能エネルギー

 従来、各国のエネルギー産業はその国の企業が運営してきました。

 この点、再生可能エネルギーでみると、先行する欧州企業は技術の優位性・コスト競争力があります。そのため、「脱炭素」ノウハウ自体が他国のエネルギー産業に切り込むためのビジネスチャンスと捉え、欧州企業による再生可能エネルギー技術の輸出の動きが目立っています。

 例えば、欧州委員会のティメルマンス上級副委員長は、「洋上風力発電は欧州の成功物語だが、さらに大きいチャンスをつくる」と、欧州連合(EU)全体として洋上風力発電を世界に輸出する意欲を明言しています。

 また、欧州の洋上風力発電会社が次々と日本市場参入を表明しており、欧州で培った安価で再生可能エネルギーを提供できるノウハウを用い日本市場の席捲を虎視眈々と狙っています。日本の国力維持・エネルギー保障の観点から、日本政府・日本企業は早急に対抗施策を講じる必要があります。

 このように、欧州企業のコスト競争力を基にした新たなエネルギー・パラダイムシフトを狙った動きが、「脱炭素」を推し進める一つの要因です。

③ 若い世代の消費行動シフト

  もう一つの動きは、西欧や北欧諸国を中心とした若い世代(ミレニアル世代、Z世代)の消費行動のシフトです。

 当初、フランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相は、石炭火力発電など既存企業への配慮などにより今ほど積極的に「脱炭素」に取り組んでいませんでした。

 それを見かねた若い世代は、スウェーデンのグレータ・エルンマン・トゥーンベリさんによる「気候のための学校ストライキ」などに触発され、フランスや各地で気候変動問題に関する大規模なデモを起こしました。

 若者の気候変動問題に対するデモの広がりや若い世代の環境を意識した消費行動シフトを目の当たりにし、フランス・ドイツをはじめとする多くの欧州政府は、「脱炭素」へ大きく舵をきりました。

④ 外交カード ~アメリカのリーダーシップと日欧による中国包囲網~

 また、アメリカのバイデン大統領も以前は気候変動問題に積極的ではありませんでした。

 民主党予備選で有力な対抗馬であったバーニー・サンダーズ氏が気候変動問題に積極的な姿勢を見せ若い世代に非常に人気がありました。民主党予備選でバーニー・サンダース氏に勝ったものの、トランプ大統領(共和党)に勝つには若い世代のバーニー・サンダース支持派の票を確保しなければなりません。また、バイデン大統領は、票固めだけでなく、大統領選を通じて若い世代の意識変容に純粋に影響を受けたと言われています。

 最終的には、大統領選を通じて、バイデン大統領も気候変動問題を重要なテーマと位置付けるようになりました。

 

 現在、アメリカは気候変動問題も世界におけるリーダーシップを示す有効なカードと位置付けて積極的に取り組んでいます。

  また、2021年5月27日、日本と欧州連合(EU)は定期首脳協議で、気候変動対策の連携を深めるグリーン・アライアンス(同盟)の立ち上げに合意しました。世界の脱炭素化を日欧で主導し、最大の温室効果ガス排出国である中国に厳格な削減を促す「包囲網」を築く狙いもあります。

 首脳協議では、水素や洋上風力、二酸化炭素(CO2)回収など広範な分野での協力や、途上国の脱炭素化支援での連携を確認するとともに、特に合意文書には、中国を念頭に「主要新興国に対し、野心的で具体的な短期、中長期の目標や政策策定を共同で働き掛ける」と明記するなど、気候変動問題でも中国包囲網で対抗しようとする各国の思惑が透けて見えます。

3. 気候変動サミットでの意欲的な削減目標

 2021年4月22日・23日、アメリカ・中国・日本を含む40カ国・地域の首脳がオンライン形式での気候変動サミットが行われました。各国は非常に高い目標を上げたのですが、特に注目されるのはまだ発展途上である中国が積極的な目標を掲げていることです。

① 日本

 日本政府は、この気候変動サミット以前は削減率23%という目標を掲げていましたが、欧州各国が軒並み50%程度の削減目標を掲げていることに呼応し、この気候変動サミットで46%の削減目標(2013年比)を掲げました。

 「日本の屋根を太陽光発電で埋める」などの環境大臣の発言はありますが、この削減目標の達成のための明確なロードマップは示されておらず、地学的な再生可能エネルギーの導入の困難性など考慮するとまだまだ課題は山積していると言えます。

 政府は補助金などの資金面での支援だけでなく、日本企業がタッグを組んで日本企業群で世界に対抗するための仕組みづくりを支援するなど、多方面での手立てが必要であると言えます。

② 中国

 一つ大きな動きは、CO2排出量世界1位の中国が明確な目標を示したことです。

外務省HPより

 中国では、原子力発電所の新設が加速化しているだけでなく、内モンゴル自治区の砂漠地帯に世界最大の砂漠集中型太陽光発電所(敷地面積は約120万平方メートル(東京都の約半分)、年間発電量は20億kWh、生産高は6億2000万元)の建設を進めており、再生可能エネルギーへの取り組みも積極的になっています。

 中国も「脱炭素」を国家戦略の一つとしており、日本の住宅の屋根が中国製の太陽光発電で埋まるということも近い将来起こっても不思議ではありません。

 また、中国では、国の補助金などの支援を受け43万円の電気自動車が発売されるなど、経済面で世界をリードするために「脱炭素」を利用しようと考えています。

 中国は、経済的にも軍事的にも世界の脅威です。

 欧米は、気候変動問題の面でも中国にリーダーシップを取られることに非常に危機感を感じています。気候変動問題で後塵を拝してはいけないのです。したがって、中国の積極的な気候変動対策が世界の「脱炭素」の動きを加速化させている。そういっても過言ではありません。

以上のように、国家レベルでの「脱炭素」の動きはホンモノと言えます。

 したがって、日本企業も、企業活動を持続可能なものとするためには、「脱炭素」を自社課題と捉え対応することが世界レベルでの競争に打ち勝つための必要最低要件になってきています。

当社は、気候変動対策・再生可能エネルギーを専門とする大学教授などと連携を図り、 環境省が推進する取り組みのひとつである脱炭素経営促進ネットワークの支援会員として、企業の脱炭素経営の推進を支援しております。
また、脱炭素に関してご不明な点がございましたら15分間無料相談なども行っていますので、お気軽にお問い合わせください。

「脱炭素経営促進ネットワーク」は、CO2排出量の削減などの温暖化対策の取組みに積極的な活動をする企業と目標達成のためのソリューションを提供し支援する企業の間でのコミュニケーションを活発化させ、SBT(Science Based Targets)に取り組む企業を増加させるとともに、脱炭素経済と企業の成長を推進することを目的としたネットワークです。

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小林孝嗣

公認会計士/㈱文化資本創研 代表取締役社長
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