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研究論文(特別顧問) 住まいづくりは「生き方づくり」

執筆者:廣瀬 滋

一級建築士、HAS建築研究所 所長
一般社団法人文化政策・まちづくり大学校 理事
協同組合ジャパンデザインプロデューサーズ ユニオン 副理事長
㈱文化資本創研 特別顧問

目次

  1. 序文
  2. 生活を感学(感じて学ぶ)することから始めよう
  3. 今、時代は変わりつつあるようです。
  4. 生活建築学と文化経済

1. 序文

このコメントは私の仕事・活動体験からのメッセージです。

私は、住宅設計の仕事は、住まいをつくりたいという方々から相談を受けて、時には矛盾する希望条件、現実的な経済条件、法規制などを勘案して、「住まい手の生活のあり様を人生設計も含めて具現化する」使命を担っていると考えています。
そのため、工務店や、大工さんをはじめ職方とも連携しながら、住まい手の生活シナリオがより良く演出される「住まいづくり」を如何に実現するか、デザインプロデユースする仕事でもあります。

私は住宅設計活動において、色々な生活、生業を営んでおられる施主(建築設計依頼主)の方々と「住いづくり」について、話し合い、協力し合いながら、単にビルデイングとしての住宅を建てるのではなく、住まい手の人生ステージとしての「住まいづくり」を進めてきました。
その経緯・経験の中で、施主の方々が、住まいづくりが自分達の生活のあり様や生き方の基礎として生き方づくりに繋がるということをあまり意識して正面から取り組んでおられないことが気になりました。

本来、誰しも、日常の暮らしの利便性や、住まいの中で展開される生活のあり様、夫婦や子供、祖父母との家族関係のあり方、将来の生活に対する夢や希望への想いを抱くことはたくさんあるはずです。
又、住まい手一人一人の生活のあり様にも強い希望や欲求を持っておられますが、日常生活の中では、この大事なことを時間に追われ、話し合ったり、考えたりする時間や場が持てず、具体的な生活シーンのあり様として、生活シナリオの構想を描くところまで、踏み込んで深く考えてこなかったという方が意外に多かったのです。

時間や場がなくても、食べ物や着るものについては、それなりに熱心に情報も集め、良いものを選び、組み合わせを考え、‘質の高い生活’、「おしゃれな自分流生き方」を心掛けておられる方も大勢おられます。が、‘住まい’となると、施工や流通体制などの複雑で多様なことは専門家に任せるものと言う通念が強いのが一般的です。

また、‘住まい’は度々、構築、購入するものでもありません。
その上、コストが高くつくこともあり、経済的条件が優先され、立地条件や構造、性能、使い勝手、基本的な間取りへの希望、標準設備や家具装備など、主に物理的条件さえクリァ出来れば良しとする気持ちにとどまり勝ちになってしまいます。

でも、本当にそれで良いのでしょうか。
たとえ、それまで生活のあり様について色々話し合ったり考えたりする時間や場が、十分取れなくても、新しい住まいづくりやリフォームの機会にこそ、「住まいづくり」は「生き方づくり」という視点から「自分みえる化」、生活価値観等を立ち止まって考えてみるのはどうでしょうか。

実は、ちょっとした意識の変化、視点の持ち方によって、‘住まい’に対する人々の希望や欲求が、多様に語られ始めます。
その中で、住まい手の思いは、生活との具体的な関わりとして、‘住まいづくり’は‘生き方づくり’としての構想となり、具体的な生活シナリオを描くことが可能となります。

現代人は、多くの既製品化、量産化された生活物資に囲まれて生活することに慣れた結果、‘つくる’とか‘構想する’のは苦手になりがちです。
「住まいに」に関しても住宅産業・メーカが提供する標準品、商品が溢れています。さらに、次々と繰り広げられるメデイア広告、イベント、キャンペーン、ネット情報などに関心が行きがちです。
住宅が商品化された弊害は多大と云えます。

生き方を左右することにつながる大きな要因、要素である‘住まい’と生活のあり様の関係を自分自身の問題として、しっかり受け止めてみる。
今こそ「住まいづくり」を自分の基本的命題として丁寧に見直し、感性と理性を程よく働かせる意識や習慣を取り戻すことが大切ではないかと思います。

2. 生活を感学(感じて学ぶ)することから始めよう

そこで、‘住まい’に「生活や暮らしの場」としての気付きや自覚を取り戻すためにはどうすればよいかという問題が出てきます。

私の提案は、「感じて学ぶという新しい『人の生き方』によって、気付きから生活建築力を育み磨こう」というものです。

最近までは、生活環境、背景として、人々の生き方に多大な影響を与える‘住まい’に対して、住い手が、自分の意向、自分の構想を「生活の中の人生シナリオ」として、住まいの設計に反映されることはめったにありませんでした。

一人一人の人生は、多様な可能性を持っています。
可能性には二つの道があります。
一つには、人生の希望や夢、○○になりたい、というもの。
もう一つは、日常の暮らしを、より充実したものにしたいというものです。
暮らしの充実に注目すると、その可能性が花開くかどうかは、日々の身近な生活の中で、何を心掛けて暮らすのかを考えることから始まります。

例えば、健康のために万歩計をつけて、一日、一万歩、歩こうとすること。
そして、住まいにおいては、食事のメニューを意識して準備すること、快適なリビングのためのしつらえを工夫して演出してみる。
家族や隣人、友人との人間関係のあり様を考えなおしてみるなど、人が如何に次々と起こる出来事や関係性の中で、うつろいや輝きを感じ、新しい気付きや発見を見出す力量を育み、人との交流の中で、歓びを感じ、創造的な関わり方を持ち合わせ、磨き続けるか。
可能性が拓けるかどうかは、ここにかかっています。

’感学‘とは自分の生活環境(自然環境も含む)や人間関係、身の回りのいろいろな出来事に出会う中で、その機会を生かして、自然や生活のシーンや行為から何かを感じ、自分自身の内面における思考でそれを意識化することに始まります。
「意識化する」とは、それまでは意識せずに見過ごしてきたことを改めて見つめ直すことを意味しています。

ほんの個人的、主観的な気付きや思い付きとして見過ごされ勝ちな事柄も、例えば、「あの公園の緑が好きだ」、などと意識することで、「健康で文化的な環境」や「自らの生活実感を高める」ことにつながることもあります。
又、自分の好みでも、他者との共感を得たり、「都会に緑を」というような社会的ニーズと出会えば、たちまちにそれなりの自信や根拠が構築されます。
さらに関連の学習をすることから、「緑のまちづくり」、「みどりの街にふさわしい住まい」など、より大きな成果に結びつく可能性さえ生まれるのです。

‘住まいづくり’はシステムキッチンの選択やリビングの仕様などハードな条件を決めることも必要ですが、より大切なことは、生活シナリオを想い描き、どの様な暮らしの展開が未来を築く糧につながるか、どの様な生き方を目指すのかを明確にすることです。 

例えば、「家族の団欒、コミュニケーションのしやすい住まい」など、実体としての住空間と生活のあり様の関係を意識的にとらえると、色々な気付き、問題発見が起こります。
それを実現するにはどうするか、色々な対応力として生活の智慧が生まれます。 

生活のなかで、住まいのあり方を見直し、色々構想することで、自分自身の生活建築力を高め、生活を通して継続的に研鑚できる可能性を追求することにつながります。

この様なことを、住まいづくりのための時間と場を作り、私の様な建築専門家が施主の方と話し合うと、その時、「目からうろこが落ちました。住まいづくりとはそういうことですね。」と共感されることが多いのです。
そこから、住まいづくりに自らの生活シナリオを意識して取り組まれる姿を、まのあたりにすることも、またうれしいことでした。

その結果、この様なコラボレイション(協調して創り出すこと)の機会が、単に生活の入れ物(box)として住宅が完成するのではなく、家族流・自分流のかかわり方が意図された住まいづくりにつながり、新築時が出発点、人生のリスタートになることを見取ることができました。

リノベーションやりモデリング時においては、既存の住まいでの生活のあり様を、リアルに反省も込めて、身近なこととして見直すことです。
色々な気付き、問題発見が行われ、その解決に取り組む家族間コミュニケーションや創造活動を通じて、具体的な新しい工夫を試みることで、一人一人の日々を生き抜くための「生活建築力」という「生きる力」が芽生え育成される可能性を感学してきました。

こうした人々自身が生活の中で‘生きる力’として身に付けている‘住まい’への欲求や生活環境への対応力を私は、「生活建築力」と呼んでいます。

そして、その育成が、やがて色々な人々の多様な立場で形成された生活建築力と出会い、社会の智慧となり、集体化されて無体財産、人々の習慣や伝統、すなわち、文化資本の原資となって未来を築く糧に繋がると考えています。

3. 今、時代は変わりつつあるようです。

戦後の住宅難時代から、昭和30年代、その後の日本高度経済成長期に合わせて、住まいと言えば、核家族化の流れの中で、狭小スペースにおける「寝食分離」、3LDKなど、平均的家族パターンに対応したスタイルを基本に、量産型標準住居(建売住宅を含む)が、一般的に展開されてきました。
そして、人々の‘住まい’に関する対応は、先述したように、色々な希望や自分流のシナリオを組み込むことからは程遠く、その不自然さにも気が付いていなかったのです。

しかし、今、住宅難の時代から、所帯数を上回る住宅戸数が着工され、次第に空き家が増え始めるとともに、自分のライフスタイルにふさわしい家、質の高い‘住まい’への関心が強まってきました。

現代では、若い世代では、セルフリノベーション、シェアハウスなどの流行語が誕生しました。
人々は、予算は少なくても、「住み応え」のある‘住まい’を求め、実験モデル住宅に住んでいる人や、設計や施工の過程にも関心を持ち始めています。

近年、多様化する都市生活の中で、自身のライフスタイルのあり様に関心が向けられ、住まいにもライフスタイルを反映したいという欲求は上述のように、顕在化してきています。
しかし、住宅産業の発展の中で、それは、マーケテイングレベルでのライフスタイルというかたちでグルーピングされ、パターン化されている状況です。

まだまだ、住まいを見直す、考えるという、人の生きる力「生活建築力」に気付き、自らの「生活建築力」を育み、磨くという能動的生活者への転換のチャンスに人々が参加する状況にはなっていません。
住宅供給者からの反省を込めた実験的こころみの段階であると言えるかも知れません。

人々が、十人十色、もっと自分の住まいのあり様に関心を持ち、生活建築力を高めるならば、いずれは、住宅供給、生産システムも変化せざるを得ないでしょう。

それは、既製品の住宅、標準化された住居を市場で商品として買うという普通の経済ではありません。
施主が、建築士(建築家)と相談して、「自分たちの健康や生きがいを実現する場」を注文し、工務店、大工をはじめ多くの職方が協働してそんな場を作ります。

施主は顧客、工務店、大工さんたちは生産者、建築士(建築家)はプロデユーサであり仲介者でもあります。

4. 生活建築学と文化経済

出来合いの商品を選ぶのではなく、施主の個性や人格、生き方を実現するために、注文生産を通じて、「かけがえのない住まい」が誕生します。
標準品ではない、オンリーワンのものが誕生します。標準品ではない、オンリーワンのものを産み出し、活用する経済は、文化経済と呼ばれています。

この経済は、社会が成熟してくると、顧客のニーズが多様化し、個性化するので、これにこたえようとすれば、注文生産以外に道はありません。

「住まいづくり」はこの意味では最も先端的な経済、文化経済のモデルなのです。
このようなモデルは、日本では西陣織のような伝統産業に多く見られ、最近では、食文化を担うシェフ(料理人)の仕事にもみられます。

文化経済の特徴は、プロデユーサを媒介として、顧客と生産者(職人)との対話があり、コミュニケーションを通じて学び合い、育み合う関係が生み出されることです。

その意味では、文化経済は「人を育てる経済」といえるでしょう。
量産型経済が、機械を導入して、人員整理を行うのとは反対の姿がここには見られます。

本来、日本人の潜在的力量として存在していた「生活建築力」に対する人々の関心、欲求が求められる時代であればこそ、其々の生き方、ライフスタイルを築くもとになる、生活のあり様を感学し、生活シナリオを構想、具体化するための一歩を‘住まいづくり’という行為を生活建築学の多角的な視点からとらえて考察すること、さらに、そこに、個人の主観的生活建築力の存在を位置づけ、個人が自らの生きる力を育成するとともに、色々な分野の人々の生活建築力が連携・交流することによって、集体生活建築力となり、それが生活建築学として拡がりを持つことをイメージしています。

そして人々の育む生活建築力が、人々の持つ無体財産として文化経済活動の振興にも関わり、まちづくりや地域コミュニテイ、地域創生などに役立つようになることを願っています。
又、こうした一連の流れを生活建築思想と位置付けて、‘すまいづくり’のプランニングから「まちづくり」、人々の「生き方づくり」を、共に考察できればと思います。

以上の様な事をプライベートセミナーでは語り合い、各自の生き方づくりにつなげたいと思っています。

当社は、公認会計士・CSRスペシャリストなどの専門家集団と大学教授などの学術研究者陣との協働による産学連携により、SDGs・脱炭素の教育・浸透、SDGs・脱炭素経営の推進を支援しています。
15分間無料相談などもしていますので、SDGs・脱炭素に関してお困りごとがあればお気軽にお問い合わせください。

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執筆者:廣瀬 滋

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